Ⅳ：考察
以下に，観察したヒラゴケ属各種の内蒴歯、乳頭、外蒴歯について詳しく考察する。
１．内蒴歯について
野口(1949)は、N. flexiramea Card. コメリンスゴケとN. nakazimae (Ihs.) Nog. モロハヒラゴケの歯突起は弱く、N. konoi Broth ex Card. タカネメリンスゴケの歯突起は稍々丈夫と記している。本研究では、歯突起は痕跡的で、基礎膜があるものも観察された。
西村・渡辺(1992)は、N. yezoana Besch. エゾヒラゴケの内蒴歯では、痕跡的で、外蒴歯内面のトラベキュラ上に付着し、その内面は細かい乳頭で覆われると記している。本研究では、同様に痕跡的な内蒴歯も観察されたが、三角状の歯突起も観察された。
他の種については、N. fauriei Card. サイシュウヒラゴケで線状の歯突起が確認されることもあったが、他では痕跡的なものが多く、日本産ヒラゴケ属の各種における内蒴歯形態は、同種内においても変異に富んでいると思われる。
２．乳頭について
外蒴歯に現れる乳頭については、産地や個体によって、一面にでる、まばらにでる、稀にでる、ヴェルカ状やバキュラ状にでるなど形態に差があった。そのため、日本産ヒラゴケ属の外蒴歯に現れる乳頭は、同種内においても変異に富んでいると思われる。
３．外蒴歯について
西村・渡辺（1992）は、N. yezoana Besch エゾヒラゴケについて、外蒴歯表面のトラベキュラは低い。外蒴歯の外板上にはヴェルカ状～バキュラ状の乳頭がでるが、蒴歯上部でより顕著であると記しているが、本研究では、トラベキュラが低いことは同じく観察されたが、乳頭は中部から顕著であり、乳頭がほぼない個体も観察された。
また、西村・渡辺（1992）は、N.yezoana Besch エゾヒラゴケの外蒴歯裏面のトラベキュラは顕著であり、内板上には、外板と同様の乳頭が、蒴歯上部でより顕著にでると記しているが、本研究では、そのように観察される個体がほとんどであったが、例外的に表面に乳頭がほぼない個体の裏面は乳頭が下部ではやや出るが、上部では乳頭がほぼなかった。
外蒴歯の形態は、結果に示したように、各種の特徴が比較的明らかに観察された。